【読書感想】かのこちゃんとマドレーヌ夫人(万城目学)

 

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (角川文庫)
 

かのこちゃんは小学1年生の女の子。玄三郎はかのこちゃんの家の年老いた柴犬。マドレーヌ夫人は外国語を話せるアカトラの猫。ゲリラ豪雨が襲ったある日、玄三郎の犬小屋にマドレーヌ夫人が逃げこんできて……。元気なかのこちゃんの活躍、気高いマドレーヌ夫人の冒険、うれしい出会い、いつか訪れる別れ。誰もが通り過ぎた日々が、キラキラした輝きとともに蘇り、やがて静かな余韻が心の奥底に染みわたる。

 

 プリンセス・トヨトミ (文春文庫)や、鴨川ホルモー (角川文庫)など、映像化された有名な作品を世に放った著者だが、隠れた名作はこの一冊だと断言する。

 描かれているのは、どこか懐かしくてほほえましい小学1年生の日常。大きな仕掛けはなくとも、悔しいほど楽しませてくれる。

 

 親指しゃぶりがやめられなかったかのこちゃん。ある日、親指という栓がぽこっと抜け、「知恵が啓かれた」という。

 知恵が啓かれて、内なる好奇心が一気に外に噴出。「いかんせん」や「茶柱」などの難しい言葉を覚え、刎頚の友と出会い、自由研究で注目を浴びるなど、その活躍はとどまるところを知らない。

 

 登場する猫も少し、いやかなり個性的だ。その名もマドレーヌ夫人。かのこちゃんの家の柴犬・玄三郎の妻で、外国語を話せる(=犬と会話できる)という猫界では稀有な才能を持つ。そのおかげで、近所の猫の中では一目置かれる存在だ。

 そんなマドレーヌ夫人が、ある日不思議な体験をする。

 近所の猫たちのため、夫玄三郎のために暗躍したマドレーヌ夫人だったが・・・。

 

 初めて経験する別れ。

 30年生きたわたしだって、いまだに別れは苦手だ。妙な遠慮が小さな後悔を生んだりする感じ、なんかすごく、わかる。

 きちんとさよなら(さらば)を言えたかのこちゃんは、すごくかっこよかった。

 

「歯が抜けたあとに舌を突っこむと、 深い穴が空いていてびっくりするよね」

「でも、新しい歯がその奥に少し出ているとうれしい」

 生え変わる歯のごとく、人は何かを失うことで成長していく。 

 読み終わったあと、あったかいミルクを飲んだように、じんわりとしたものが胸に広がった。

 

 

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