【読書感想】猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷(小路幸也)

 

猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷

猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷

 

蘆野原の郷は、古より、人に災いを為す様々の厄を祓うことが出来る能力を持つ者を排出してきた。その若き長・和弥が娶った妻・優美子が、ある日猫になってしまい……。

文明開化の移りゆく時代。変化しつつある時代の端境に使命を負った青年と幼馴染の親友・泉水。彼らの未来は……。 

 

 「猫の手も借りたい」とは、誰でもいいから、何の役にも立たないような猫の手でも借りたいほど忙しい様を表すことわざである。

 いやいや、猫の手をバカにせんといてくれます?猫の手は役に立つねんで!このことわざを作った昔の人にケンカを売りたくなる読後感。

 

 タイトルからエッセイのような雰囲気を醸し出しているが、これは不思議な世界観を描いた小説だ。

 最初のページの1行目。

家に帰ると猫がいた。

 素敵な情景ですね(ウットリ)。そして、たった1枚ページを繰ると・・・

これは妻なのだ。

猫になった妻なのだ。

 ええーーー!納得はや!

 しかも主人公だけではない。周りの人物たちも、「あらあら、奥さん猫になったのね」くらいの軽い飲み込み具合で、こちらの頭の中の「?」なんて無視しながら不思議な世界へいざなってくる。

 

 古より、蘆野原の出のものは人々の災いの元となる厄を祓う力がある。主人公の和弥はその長筋で、この世ならざるものを在るべきところに戻す役割を担っている。なにか災厄が現れる前には必ず、妻優美子が猫に姿を変えて・・・。

 

 犬や鳥ではだめ。優美子が姿を変えるのは、猫以外にありえないと、思う。「物事の理りも何もかもを悟っている」ような猫の雰囲気が、この叙情的で、妖艶な雰囲気にぴったりだ。

 

 連作短編集のなかで、どんどん季節は移ろいゆく。

 その自然に対する美しい描写も注目していただきたいところだ。

 

 

我が家のねこさまはこちら。この本の表紙のねこさまにそっくり!