【読書感想】猫ヲ祭ル(千田佳代)

 

猫ヲ祭ル

猫ヲ祭ル

 

 一人住まう女性が、猫とともに老いを迎える。猫と人との関わりが絶妙に描かれる……。人生の根元に触れた哀しみと孤独とが匂い立ってくる。猫と老嬢、人生の終末を支え合う最愛のパートナー。川村湊氏(文芸評論家)推薦。

 

 タイトルは、梅尭臣(ばいぎょうしん)の詩「猫ヲ祭ル」から。飼っていた猫、五白が亡くなったときの哀切を詠った詩である。

 戦争で足を悪くしてしまい、80歳近くまで未婚・子なしのまま一人きりで暮らしてきた女性が、ある日「ナイル」という猫と一緒に暮らすことになる。

 あるとき背骨を圧迫骨折してしまい、老いと、心細さに涙する女性。ナイルは頬に鼻を近づけ、鼻の触れたところを舐め、しだいに目尻の涙を舐める。肩に身をよせ、香箱をつくり、喉を鳴らす。グルグルグルグル。

 この場面の美しさたるや。猫の体温のような暖かさが文章から滲み出ている。

 冷静で静謐な暮らしの中でも、時々憂う。高齢で非力な自分自身と、凛とした中年猫のどちらが先かーー。

 その静かな優しさが、心に沁みてくる。

 出版されたのは2009年。現在も変わらぬ生活が続いていますように、と願うばかりである。

 

 著者と重なる語り手の女性は、ほぼ著者の姿を描いているそう。俳人なだけあって、言葉をぐんと抑制しているような印象がある。語られない部分を読み取る力がわたしには足りなくて、少々読み進めにくくも感じたが…。言葉の余韻に耳を澄ませる、新鮮な読書の時間であった。

 

 

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