【読書感想】猫鳴り(沼田まほかる)

 

猫鳴り (双葉文庫)

猫鳴り (双葉文庫)

 

 

ようやく授かった子供を流産し、哀しみとともに暮らす中年夫婦のもとに一匹の仔猫が現れた。モンと名付けられた猫は、飼い主の夫婦や心に闇を抱えた少年に対して、不思議な存在感で寄り添う。まるで、すべてを見透かしているかのように。そして20年の歳月が過ぎ、モンは最期の日々を迎えていた……。「死」を厳かに受けいれ、命の限り生きる姿に熱いものがこみあげる。

 

 グルグルグル、あの幸せな音を連想する「猫鳴り」というタイトル、可愛いねこの描かれている表紙に惹かれて安易にこの本を手に取ると、ぜったいに後悔する。

 猫好き、動物好きには非常に心苦しい物語だからだ。

 単に猫が命を落とすシーンがあるからではない。猫と関わる登場人物たちにまったく共感できないのである。

 

 1章の語り手信枝は、お腹の中で赤ん坊を亡くしてしまい失意のどん底にいる主婦。2章の語り手行雄は、父親の愛情を求める不登校の中学生。

 いずれも心がささくれているときに猫に出会い、残虐な選択をしようとする。

 

「のぶえぇぇーっ」

「飼ってやりゃあいいじゃんよおぉーっ」

 びっくりした。わたし解説書いたっけ?と思ったほど、解説にわたしの気持ちが代弁されていたのでびっくりした。

 

 そんな辛い1章2章の中でも、当然ながらねこは何も語らない。彼らの身にどんなことがあって、どういう思いに苦しんでいるのか、まるで全てを知っているかのように。

 

 3章は妻に先立たれ、死に向かっていく老人と、猫の静謐な暮らしが描かれている。猫と暮らすわたしにはこれまた辛い内容だ。1章2章とは別の意味で目を背けたくなるが、勝手に辛くなって余計なことをガタガタ考えるのは人間で。

 猫は、磨き上げた琥珀のような目で、死を、すべてを、しぜんに、静かに、受け入れている。

 すべてに共通して登場するモンという猫の強い「いのち」を見届けたとき、やっぱり猫は偉大だなあと畏敬の念を抱いてしまう。

 

 初めに、猫好きがこの本を読むと後悔すると書いた。それは猫好きに媚びたりせず、ほれ泣かしてやろうという浅はかな物語ではないためだ。

 でも、心苦しくても読み切ったとき、人間の弱さや、当たり前に訪れる死に対して、少しだけ、ほんの少しだけ寛くなれた気がした。

 そして、この物語は真の猫好きで猫を熟知していないと書けない。そう思う。

 

 

こないだ見た野良猫。