【読書感想】しずく(西加奈子)
恋人の娘を一日預かることになった私は、実は子供が嫌いだ。作り笑顔とご機嫌取りに汗だくになっても、ぎくしゃくするばかり・・・。ふたりのやり取りを、可笑しく、そして切なさをこめて描く「木蓮」。恋人同士が一緒に暮らしたことから出会った二匹の雌猫。彼女たちの喧嘩だらけの日々、そして別れを綴る表題作。ほか、日だまりのように温かい「女ふたり」の六つの物語。
(表題作、「しずく」について)
ちょっぴり切ないねこたちの物語。
シゲルの飼い猫フクさんは、とても気位が高く、随分と気まぐれな雌猫。
エミコの飼い猫サチさんも、大変気位が高く、とても気まぐれな雌猫。
シゲルとエミコが同棲を始めたことで、二頭も一緒に暮らし始める。
「そういえばサチの肉球、桃色と茶色のまだらで、おかしいわよね。」
「あら、何言ってるのよ。あんたのおでこのブチなんて、泥をかぶったみたいで、変だわ。」
「何言ってるの。あんたのまだらなんて、本当にまだらなんだから。はっきり言わしてもらうと、すごく、まだらよ。」
「あんたのおでこの泥だって、前から言おうと思ったんだけど、前から言おうと思っていたし、これは、前から言おうと思ってたんだから!」
「のおおおおおおおおおおおお。」
「だふううううううううううう。」
いつもこんな調子。クスリとさせられるこの会話と、日だまりに包まれたようなお互いの身体を舐め合う時間。そして、ぷくう、と風船のようにふくらみ、ふるふる震えて、ぽたりと落ちる雫を一緒になって眺める、そんな時間がふたりはだいすきだ。
でも、そんな日々は長くは続かない。
家の中の様子が少しずつ変わっていく様子と、それに気付いているようで変わらないふたりの関係。その歪みが、なんとも切ない。
気位の高いねこたちのように、女同士はどんなに親しくても見栄を張ったり、遠慮したり、嫉妬したりといろいろめんどくさい。心の機微を丁寧に描いている6つの物語は、どれも心の奥底にある何かをくすぐってくるようだ。
我が家のねこさまはこちら。
かああああああわわわわわああぁぁぁぁいいぃぃぃ pic.twitter.com/JR90vDaqrp
— ayako kondo (@ayako______) February 25, 2016